水道管(塩ビ管)でサックスを自作しました。こう見えても「円錐管を」「リードの振動で」鳴らすという、サックスとしての最低限の要素を備えています。
ただバカバカしい自作楽器で曲を吹きたい、そういう衝動があるわけです。最近はプラスチック製のサックスも市販品が幾つかあるし、精密な複製を3Dプリンターで作ってしまう人まで居るようですが、そうした「スマートさ」の潮流の中でこそ逆に、こういう無茶なプロダクトの熱量と存在感が際立つはず!そう信じて開発を続け、とうとう一応演奏できるレベルに持ち込みました。
本物のサックスを見ないで進めたこともあり、苦難の連続です。うまく共鳴する円錐管を作るのに膨大な試行錯誤が必要で、1オクターブ鳴らすまでに9ヶ月かかりました。小サイズのためか音程がとりづらく、演奏の出来にも頭痛を覚えますが(汗)、初心者なりに本気で練習を重ねているところです。
マウスピース、リード、リガチャーまで100%自作に成功!
楽器本体だけでなく、「マウスピース」も塩ビ管から自作、「リード」は別の身近な樹脂廃品から削り出して自作、「リガチャー」(リードの留め具)は銅線を巻いて自作しました。楽器本体からこの3点までを全て一から作った例は非常に珍しいようです(特に樹脂リード)。
調べると竹でサックスを自作する人達はペルーやインドネシアに昔から居るらしく、そちらでは竹リードの自作も普通だったりするのかもしれませんが、さしあたり「塩ビ管サックス&塩ビ管マウスピース&樹脂リード」の自作に成功したのは自分が日本初で、もしかしたら世界初では??と思っています。
マウスピースは手ごわい!いきなり難航
まずマウスピース作りから着手しました。最初は塩ビ管(内径13mm)の端を加工してプラ板を当ててみるなど、闇雲に作り始めましたが、ほぼ音が出ません。
いきなり行き詰まったので、参考にするため仏セルマー社のテナーサックス用マウスピース「S90」(高いねー)中古品をヤフオクで入手し、主要部の寸法、特にフェイシング(リードに接する面)の幅と曲面形状を測って、塩ビ管のストレート継手(内径13mm管用、1個税別約40円、2個直列)の削り出しで再現することにしました。そして、買ったセルマーは使いません笑。どうやらセルマーである必要も無かったようでした。
フェイシングの曲面形状の測定と再現は、マウスピースのリフェイシング(削り直し)の作業を解説している米国?の職人さんの動画を参考に進めました。面の角度と平坦度に注意しながら、棒ヤスリと400番までの紙ヤスリで延々と削ってまず平坦なテーブル面を出し、そこから「測っては削り」「吹いては削り」を慎重に繰り返してフェイシングの曲面を作ります。テーブル面の平坦度が特に重要であり、少しでも狂っているとまともに鳴りません(ここを仕上げるだけで何日もかかります笑)。フェイシングを削りすぎたら再びテーブル面を削れば何度かやり直せます。
プロの方の作業ではガラス定規、ガラス台板、ステンレス製厚さゲージといった専用の道具を使うようでしたが、このレベルの精度ならば代用品でいけるだろうと考え、普通の事務用プラ定規、ベニヤの台板、惣菜プラ容器各種を切った自作厚さゲージ(5枚)を使用、これでも手順を踏むことで結構それらしい精度での再現ができました。
工作の鍵は「熱可塑性」
塩ビ樹脂は熱可塑性(熱すると柔らかくなり、冷めると再び硬くなる性質)があります。この熱可塑性を利用することが、今回の工作では随所で鍵になりました。一つはマウスピースのバッフル(上面を斜めに覆う平板)で、これは塩ビ管から切り出した樋形の小片を鍋でゆでて柔らかくし、えいやっと平坦に延ばして2枚のベニヤ板で挟み(やけどに注意!)、冷える前に万力でプレスして作っています。こうして平坦に硬化した小片は次に、のこぎりでバッフルらしい小判形に切り、半田ごてを使った樹脂溶接によって、その周縁をマウスピース本体に固定します。ここでも熱可塑性を利用しているわけです。
樹脂溶接は昔ネットで見つけたナイスな技法で(車の樹脂エアロパーツの補修記事でした)、自分は家電や日用品の割れ修理で多用しています。高温のこて先で、接合したい継ぎ目を溶かしながら突き刺してゆくのは新鮮な感覚ですが、のんびりやっていると樹脂が焦げるので手早く行う必要があります。はみ出たバリはカッターナイフと棒ヤスリで削り落とします。棒ヤスリはダイソーの「ホビー・工作ヤスリ 平・半丸」(2本組100円)と「鉄工用 半丸型ヤスリ15cm」(1本100円)が素晴らしく、リード削りでも大活躍しました。
世界初?!削って作る樹脂リード
リードは当初惣菜プラ容器を切ったり、クレジットカードを切ったり、PETボトルを熱収縮させて厚くしたり、シリコンシーラントを盛ってみたりと色々試しましたが、職場の飲み会で図面グループ長のアガリエさんから「そんなの削って作ればいいじゃん」との衝撃的なアイデアを頂いて一気に解決、図面屋さんのクラフトマンシップの凄さ、ものづくりの解像度の高さを実感しました。
リード削り出しの素材は塩ビ管の切れ端でOKですが(下の写真)、やや柔らかすぎて音が鈍いため、最近はもっと硬くて割れにも強い別の身近な樹脂製品(企業秘密です笑)の廃材を使っています。樹脂リードの自作成功例は英語でネット検索しても見当たらないので(失敗例はありました)、結構これ自体が世界初かもしれません。リードの細部についてはその後、当バンドの望月さんが貸してくれたテナーサックス用樹脂リード「BARI(M)」を参考に、幅・長さ・各部の厚さと硬さ(しなり具合)をざっくり再現しました。最も薄い先端部の厚さは0.55mm、リード各部の厚さの管理にはノギスが必須です。削りすぎたら先端を爪切りで0.5mmほど切り詰めればやり直せます。
楽器本体の塩ビ管の太さは色々試しましたが、最終的には内径13, 20, 25, 30, 40 [mm]を使いました。塩ビ管(塩ビパイプ)は汎用産業資材なのでホームセンターで大変安く売っており、一番細い内径13mmのものが1mで100円前後、一番太い内径40mmのものが1mたしか350円前後でした。大半は信越化学製「シンエツエンビパイプ」ですが一部は三菱化学製「ヒシパイプ」で、互換性があります。耐圧のVP管は厚手で重いため、非耐圧のVU管が選べる大径部分(呼び径40mmの部分)では後者を使っています。5cmとか10cmしか使わない太さのものも、最寄りのホームセンターでは1mからしか買えないため、余りが大量に出ました。
パイプ同士の結合には、継手による嵌め込みのほか、指穴位置の確保のため、上述の樹脂溶接を随所で使いました。突き合わせの結合部では接着剤よりも圧倒的に強靭です。
リガチャーを銅線で自作するアイデアはSax artist UZUさんの記事を参考にさせて頂き、大変有効でした。使った2mm径の銅線は最低15m長でしか売っておらず(ヨドバシ通販で1050円)、1回の人生では使いきれない量ですが、出来たリガチャーの性能と使い勝手がかなり良いので、すでに元は取れたとも思っています。
ネックの曲げ加工は、台湾の工業高校の教習動画をヒントに、ガスコンロの遠火で少しずつあぶって行いました(これも熱可塑性の利用の一形態です)。今一つきれいに曲げられず、いびつさが残りましたが、あまり深追いすると嵌め込み部分の真円度に影響しかねないので、この手作り感も味かと割り切っています。
唯一つけたキーは左手小指用です(押さえると穴が閉じます)。あくまで支援用で必須ではないのですが、あったほうが小指による穴ふさぎ操作がラフで良くなり、演奏性がかなり上がります。キーは独自開発のシーソー型であり、輪ゴム(笑)1本によってキー自体の固定と開状態への付勢とを同時に行うという結構画期的な仕様になっています。ただし輪ゴムは切れたときの保険のため2本かけています(システムの冗長化)。タンポは豚革の端切れとフェルトを重ねたもので、グルーガンでキーに接着しました。
サックスは末広がりの円錐管、これを作るのが難しい!
Youtubeでは世界中から「塩ビ管サックス」(PVC saxophone)と称する自作品が盛んに投稿されています。ほとんどのものは、指穴をあけた塩ビの直管に、アルトサックス用などの既製品(市販品)のマウスピースとリードを装着するもの(例えばAlessandro Galdinoさん)や、ゴム風船やコンビニ袋などの薄膜を鳴らす自作マウスピースを工作したもの(membrane reed、例えばAbu the flutemakerさん)であって、いずれも結構サックスらしい音がする上、音が出る段階までの自作ならば簡単そうです。ちなみにアルトサックス用などの既製品のマウスピースとリードは万能で、ホース、じょうろ、くりぬいたニンジンなど、適度な内径の直管であればなんでも楽器にできてしまうようです(Linsey Pollakさんが80年代から有名、完成度がすごい)。
しかし薄膜式の自作マウスピースは倍音が出せないため、これを使う場合には音域が1オクターブ内と非常に狭くなります(音量と調律安定性にも問題があるようです)。他方、リードを用いるマウスピースでは倍音を出すことが可能ですが、本体が直管の場合はその内径が一定すなわち円筒管であるため、正確にはサックスでなくクラリネットに属するものです(全体形状がJ字型であっても同様)。これに対し、サックスは本体の内径が全長にわたって末広がりに拡大する円錐管です。音色が似ていますのでどちらを選ぶかは好みの問題ともいえますが、両者は共鳴のモードが異なるのだそうで、倍音を出そうとリードを噛んで吹いた場合にクラリネットでは1オクターブ+完全5度上に飛ぶ(3倍音)のに対し、サックスでは丁度1オクターブ上に飛びます(2倍音)。
このため、[1]クラリネットでは1オクターブを超える高音域をカバーしようとすると、上下のオクターブ間の完全5度のギャップ(いわゆるブリッジ音域)につき、これを演奏不能な音域として諦めるか、あるいはギャップをカバーするための2~3個のキーを工作する必要が生じます(キーつきシャリュモー又はバロック・クラリネット)。Youtube上の塩ビ直管の自作品はいずれもキーが無いため、ブリッジ音域を吹けないものとして諦めているか、あるいは非常に変則的な運指でカバーしているものとみられます。また、[2]クラリネットでは上下のオクターブで運指が異なるため、それだけ運指を覚えるのが難しくなります。これらはいずれも今回作り始めてから気づいたことですが、管楽器経験ゼロの自分には結構きびしい障害になりそうです。
サックスの利点はこれらの裏返しであり、上下のオクターブ間にギャップ(ブリッジ音域)がない結果として、[1]1オクターブを超える高音域をカバーしようとする場合でもブリッジ音域をカバーするためのキーが要らず構造が単純であること、及び[2]上下のオクターブで運指が変わらず運指を覚え易いことです。その反面で重要な欠点は、円錐管に丁度よい寸法の既存品が存在しないために、円錐管を一から作成する必要があることです。これについては、円筒である塩ビ管を様々な異なる太さで用意し、これらを長手方向に末広がりになるように継ぎ合わせて、擬似的な円錐管を作成する方法をとりました。このような擬似的な円錐管は設計と工作の難度が高いようで、Youtube上でのマウスピース込みの自作成功例は世界でも3人程度に限られ(タイのsomsak supasiriさん、ブラジルのsilvio feitosaさん、ブラジルのPablo Tovarさん等。リードは葦製の市販品か)、その完成度も曲が普通に吹けるレベルにはまだ遠い印象です。これは自作楽器界のブルー・オーシャンなのか、それとも底なしの泥沼なのか?
実際に作ってみると、クラリネットもサックスも泥沼でした!かれこれ3本のクラリネットと2本のサックスを様々なサイズで試作したのですが、どうにか5~6音は出ても、1オクターブまではうまく鳴らない失敗作だったため、そのつど分解して素材に戻すなど、ずいぶん回り道をしました。木管楽器の内径分布のスイートスポットは予想以上に狭いようで、既存の楽器を見ずに自作を進めたのが無謀だったのでしょう。
しかし諦めないで試行錯誤を続けるうちにアタリが来たようで、サックス1本がどうにか完成!できた楽器本体の寸法(内径分布)は、ヤマハのサイトにいう3°のテーパー角にほぼ一致していました。リードを噛んで吹くと丁度1オクターブ上に飛び、まさしくサックスとして動作しています。
できた自作品はレジスターキー(オクターブキー)もないため、高い音域の演奏はリードを噛んで無理やり行っています。下唇の内側が痛くなります。吹く際の抵抗感は強く、1曲吹くだけでもがっつり疲れます。音域は狭く、実用的なのは1オクターブ半ぐらい(下のFから上のCまで、実音ファソラシドレミファソラシド)です。音量もあまり出ません。音色も鈍い印象です(塩ビ素材の弾性に対して粘性がやや顕著であるうえ、ベルが朝顔形でなく円筒形で剛性が低く、ベル周縁のいわゆる響き線も設けていないため、残響効果の量と振動の高周波成分とが不足するものと思われます)。音程も所々怪しいですし、管の抜き差しによる調律もほぼできません。このように素人の自分にもわかる難点が多数あるため、大半のまじめなサックス奏者にとっては絶対吹きたくない楽器でしょう。
しかし制約が多いとしても見た目のインパクトが絶大であり、また音色も基本部分ないし本質的部分は得られていることから、それで何らかのメロディーが吹ければ注目度は市販のサックスの(2~3倍どころではなく)2~3桁は上と見込みました。目立てばそれでいいのか?いえいえ、利得の大きいところを狙うのはコンセプターにとって使命であり、当面解決の困難な幾つかの技術的デメリットについてはそれらの一定の部分を非本質的事項にすぎないとして捨象できるだけの度量と決断力が要求されているということです。とかなんとかポジティブに言い換えると俄然やる気が出てきますよね。笑
キーなしでも半音階OK、穴あけ手順に秘策あり!~中南米が注目か
チューニングは成り行き任せでCにしました。これにより鍵盤楽器で採譜する際に「移調」とかいう作業が不要になったのはラッキーでしたが、曲の♭の数がもろに効いてくるため、キーAb(♭4つ)やDb(♭5つ)の曲を吹くのが少々大変です。それと、一般のサックスの教室、教則本、楽譜やレクチャー動画がEbやBbの楽器(アルトやテナー)を前提に作られているため、これらを利用するのにストレスがありそうです。
音程は両手全開放と両手全押さえでいずれも実音Fなので、音域的にはアルト(Eb管)よりも1音上のようです。ほぼF管ではありますが、実音B(シ)がフラットされていないので楽器の調性としてはあくまでC管、変則的な運指のCメロディーサックスという認識です(左手小指のみ開放+右手全開放で実音C)。Fよりも低い音を吹きたい場面はしばしばありますが、より低い音域の楽器(例えばEb管のアルト)を作った場合、低音側の指穴の間隔が大きくなるため、キーを用いない指穴式では指が届きづらく演奏が困難になってゆくものと予想します。
色々試したところ、運指の工夫(リコーダーでいうクロスフィンガリング=ひと穴とばして押さえる等)によって全ての半音階が出せそうなことが分かりました。なので、一応どんな曲でも任意のキーで吹ける楽器です。運指はネットで見つけたマウイ・ザフーン(Maui xaphoon, ハワイの竹サックス=円筒管)の運指表を参考に試行錯誤して決めましたが、黒鍵音がほぼクロスフィンガリング(一部は半押さえ)という独特かつ複雑なものであり、おそらくどんなサックスとも異なっています。しかし自分は本物のサックスを吹く人になる意欲が全然ないので、特殊な運指を覚えることにデメリットは感じていません。こうした割り切りができるのも素人の強みでしょう。動画は楽器完成当時(2017年2月)のもの。ネックとベルの構造が現在のものと異なり、リードも塩ビ管を削ったものです。
つたない演奏ですが、知識ゼロで制作を始めてからこの動画の段階まで来るのに9ヶ月ぐらいかかっています。まず原理の理解から開始し、マウスピースとリードを闇雲に作り始めて音は出たものの行き詰まり、上述のセルマーのマウスピースを入手してその再現品を作るまでが3ヶ月。そこから楽器本体に着手したものの、ここから更に6ヶ月ほどかかったことになります。というのも制作を進めるにつれ、上述した擬似的な円錐管の設計の難しさに加えて、指穴の配置と大きさ、マウスピースのフェイシング形状とチャンバ容積、リードの素材、リードの形状(長手方向及び幅方向における厚さの分布)、指穴の縁部形状・・・と、どの領域にも未知の勘所があり、それぞれについて失敗と改良を繰り返して、ノウハウを蓄積することが必要でした。
特にマウスピースとリードは驚くほど繊細で、0.1mmも削ると挙動が大きく変化します。本物のサックスについても両者の「削り方」に関するウェブ上の日本語の情報はほぼ無かったため、英語での情報探索が鍵になりました。リードについて最も参考になった記事はこちら("The Clarinet Reed"=米ニュージャージー大学名誉教授Roger W. McKinney氏、削り部位別の効能説明が秀逸)。
指穴の位置をどう決めるかも最大級の難所で、ほとんどの人はここで頓挫するようですが、自分が最終的にとった手順は以下のとおりです。楽器全体の長さを調整して指穴の無い状態(最低音)の音程が決まったところで、まず低音側からドリルで1個開けて音程を調べ、音程が悪ければ穴を拡げて修正し(拡げると音程が上がります)、修正しきれなければ塩ビ管の切り屑を半田ごてで溶かして穴を埋め、また別の位置に開ける、音程がOKになったら次の穴(半音上か一音上の穴)を開ける。これらの手順を全ての指穴が開くまで繰り返すことで、どうにか乗り切りました。この「失敗した指穴を半田ごてで埋める」という技法は、指穴位置を半ピッチずらすような微修正が自在にでき、これにより失敗作の廃棄と初期段階からの再作成を回避ないし激減できるため、サックスにとどまらず管楽器全般(笛、尺八やフルートを含む)について塩ビ管から自作する場面でのブレイクスルーとなりうる重要な着想ですが、英語でネット検索しても見当たらなかったので、自分独自の新技術、世界に対する小さな貢献と自負しています(煙が有害かもしれないので自己責任でお願いします)。
まあ根性さえあれば誰でも作れますが、生半可な根性ではとても作れないというのが実感です。なので、様々な積み重ねの末にようやく演奏可能なモデルができたのが大変嬉しく、また誇らしくもあります。塩ビ管サックスをフル自作でこのレベルまで作りこんだものは世界的にも例がなかったようで、この動画は2年余で8万再生を超えており、自分の動画のうちで最大のヒット作になりました。再生場所のトップ3はアメリカ・ブラジル・メキシコとのこと、関心のある人は中南米に多いようです(日本は9位)。
動画は100%英語にしたことでグローバルなロングテール需要(笑)を拾えているようで、コメント欄ではポーランドのおっさんから技術的な質問を受けたり、ロシアの子供に「音がクソ」とけなされたり、ケニアの女子大生に励まされたり、と幅広い反応があります。こんなものでも地球の裏側の誰かをインスパイア(触発)できているのが実感できて嬉しいです。後から日本語訳を加えたため、日本では標題と説明文が日本語で表示されます。
路上ライブの幕間で実演開始、DIYトラッドジャズの夜明け?
さて自分はジャズバンド歴こそ長いものの、当初からずっとドラム専業(しかもここ20年は廃材製の)でして、管楽器・鍵盤楽器その他音階のある楽器の知識や経験が一切ありません。本物のサックスやクラリネットなどおそれ多くて触ったこともないです。しかし自作の塩ビ管サックスが予想以上に仕上がってきて、音階楽器のもつ基本的な魅力といいますか、自分の手元口元の操作に応答してメロディーが出てくる感覚の鮮やかさ、音の配列がなす表情の豊富さ、表現の訴求力の強さに驚かされています。塩ビ管ごときで驚かされるのもどうかと思いますが笑、塩ビ管でさえも大きなポテンシャル(潜在能力)があるとみればこれは看過できません。
そこで行きがかり上、このいんちきな塩ビ管サックスでジャズを吹くことを目指して、基本から練習を始めました。コードやスケールをこれまた知識ゼロから独学(図書館とネット)して、スケール練習メニューらしきものを少しずつ構築しつつ、これをほぼ毎日続けています。楽器完成と練習開始から約2年を経て、スケール練習メニューはメジャー、マイナー、セブンス(ミクソリディアン)、マイナーセブンス(ドリアン)、ディミニッシュ、オーギュメントまで増えました。つらい!楽器の音量が小さいのも、かえって自宅練習向きと思っています。好きなジャズ音源の採譜とコピーも始めました。
上達は一進一退ですが、それでも最近では東京都認定大道芸「ヘブンアーティスト」枠でのジャズボイラーズの上野公園路上ライブ(毎月1回)の中休み時間を利用し、当バンドの百戦錬磨のメンバー有志の協力を仰いで、若干のワンホーン演奏に挑戦しています(塩ビ管サックス+箱バンジョー+ベースのトリオ、あるいはサックスソロ笑)。まだまだ音程も運指も不安定で、真剣な鑑賞に耐える演奏ではなく、特に一人で吹いていると怪しすぎて大半のお客様は避けて通りますが笑、それでも一応のメロディが聴き取れるため、管楽器経験者と思われる一部のお客様は釘付けとなり、まるで宇宙人に日本語で話しかけられたような衝撃を受けておられる模様です(そりゃそうだ)。曲は「Burgundy Street blues」「High society」「Dardanella」「Take five」「Night train」「Moanin'」「Now's the time」「Tenderly」など、まさか!と思われそうなもの、「いかつい」もの、いやに趣味の良いもの等を厳選。普段やらないモダンジャズの曲も滑稽感が増すので好んで入れています。
結果的にそこそこ大人向けの芸能になっており、そのぶん「ジャズをおもちゃにするな」「へたくそ」「音がクソ」等と、各方面の立派な人たちに怒られそうです。しかし古いジャズ曲はメロディアスで表情が強くそれ自体が魅力に富んでいるうえ、その聴き手側において、実験的な実演や奇抜な着想に対する感受性や共感力が旺盛であり、濁った音色や劣悪な音質も拒絶せずに音楽的意図を読み取る耐性をもち、実演上の多少の欠損についても脳内補完力を発揮して頂ける傾向が強いため、実は自作楽器での演奏に向いているように思います。つまりは粗野な自作楽器の不完全さも、それがジャズファンの皆様の持つ鍛えられた補完本能を刺激することで、聴き手側におけるむしろ強い参加性ないし協働感覚をしばしば誘発しうるに違いないと勝手に期待するものです。
いわば自作楽器の不器用さを逆手にとって、ジャズファンの皆様の優しさや心の隙にピンポイントで付け入るこの演奏形態、これはもしや「DIYトラッドジャズ」なる新ジャンルの夜明けなのか??
なお現状は丸暗記で吹くのがやっとであり、その意味でもジャズといえず「ジャズごっこ」というべき段階ですが、目標はコードからアドリブが自在に吹けるようになることです。あまり上手になりすぎると面白くなくなるかもしれませんが、そんな心配はまだ先のことのようです。リーダーがこの有様とあって、見かねた望月さんがたまにアドバイスをくれます。他のメンバーも言いたいことがさぞかし沢山あるだろうと思います。笑
・2024.4 動画を差し替えました。こうした美しい曲にも挑戦しております
専用の楽器ケースも自作
当初は楽器(もう楽器だ)を分解した状態で、全部を一つの布袋に入れて持ち歩いていたのですが、キーが輸送中に壊れて現場で使えなくなる事故が発生。この反省から、手持ちのベニヤ端材を箱型に切り貼りして、専用のハードケースを自作しました。内部レイアウトをあれこれ工夫し、かつ解体・組立しやすい塩ビ管の特性を最大限に利用した結果、クラリネットのケースに近いサイズまでのコンパクト化を実現。写真から本気度が伝わるでしょうか?我々がこのプロジェクトをどれだけ大切に育てているかが分かって頂けるでしょうか?
外装のビニールレザーと内装のクラッシュベロア布は以前にユザワヤで買ったものを使い、肩部に縫いつけた革はフリマで買った革トートバッグ(なんと10円!)から採取、取っ手と金具類と発泡スチロールも手持ちのストックを使ったため、買い足しはパッチン錠1つと接着剤だけで済み、費用がほとんどかかりませんでした。なお楽器ハードケースの自作については、サイト「ウクレレ日記」さんが圧巻の情報量であり、とても参考になりました。
名門ビュッフェクランポンさんも苦笑い
そんなある日、在日フランス人の皆様のパーティーでダンスバンドとして演奏する機会を頂き(2019年4月)、さすがに本番で塩ビ管は吹かなかったのですが、念のため展示だけしておいたところ、ある男性の目が塩ビ管サックスに釘付けに。なんとビュッフェ・クランポン社日本法人のリエナール社長とのことです。ビュッフェ・クランポンといえばクラリネットの世界では名門中の名門、現在主流のベーム式クラリネットを最初に開発(1843年)した会社でもあります(サックスも作っているそうです)。そんな世界最高峰の木管楽器メーカーのとても偉い方と、ほぼおさるさんクラスの塩ビ管サックスとがいきなりの対面!当方の細部解説に興味津々のご様子だったため、調子に乗って若干のソロ演奏まで披露(たしかSweet Georgia Brown)したところ「こんなの見たことないよ!」と大喜びして下さいました。記念撮影と名刺交換までしてしまい、なんとも身に余る光栄でした・・・!
ベル部分を延長、そろそろ完成か
2020.3 ベル(大径端のラッパ状の部分)を異径ソケットで延長したところ、低音の鳴りがやや改善しました。延長した部分の横に大穴を開けたので、最低音の音程は従来と同じ実音F(ファ)です。全体形状がさらにサックスらしくもなり、このあたりが完成形かと思われますが、まだわかりません。マウスピースとリードは幅を少し削ってテナーサイズからアルトサイズに小型化してみたところ若干吹きやすくなったため、以後これに変えました。ここまで来るのにほぼ3年かかりました。
部品点数が増えて楽器ケースに入りきれなくなったため、楽器ケースの内装レイアウトを大変更してなんとか再び収めました。もうぎゅうぎゅうです。楽器ケースはスタンド(楽器立て)も兼ねており、そのための目玉クリップ着脱式の受け部分と木製の脚がついています(写真からは少々わかりにくい)。今一番欲しいもの?そうですね、やっぱり「グッドデザイン賞」かな。笑
・2021.11 ベル(大径端のラッパ状の部分)を異径ソケットから45度のエルボに変更したところ、音色に「くぐもった響き」を追加でき、低音域の応答も少しだけ改善しました。性能を追究してゆくと形状が市販のサックスに近づいてくるようで、スタイリッシュではありますが、不格好な形状から得られていた見た目のインパクトが減ってしまうのは惜しい感じもします。
・2022.03 異径ソケットをベルの先端に継ぎ足せるようにしました。うわ、ダサくて最高!「外観上のプリミティブ感」と「性能上の要請」とのトレードオフ(二律背反)を、こうした機能性の希薄なダミー要素を付加することで解決するのは、自分的には新しい手法です。
このような処理は機能美の観点からは不純ですが、装飾美ないしアートと捉えるとむしろ純粋なのかも。アートかい!ヤンキー単車のロケットカウルにちなんで「ロケット・ソケット」と命名、見た目のバカ度をアップしたい局面で使おうと思います。
・2023.3 巨匠チャーリー・パーカー(as)の代表曲に挑戦。ジャズに詳しい方なら「さてはジャズ・アット・マッセイ・ホールか!」と思わずニヤリ?まあなかなか大変です、現状このぐらいでご勘弁ください
ところで材料費は
こうして楽器になっている部分の材料費を計算してみたところ、660円程度でした。安すぎる!!そして、ここまでの試行錯誤で廃棄あるいは余らせた素材の分まで含めた累計の材料費は、6000円程度のようです。こちらもこれほど本気で試行錯誤した割には、意外に安く済んでいるのではないでしょうか。これは塩ビ管という素材自体が安価であることに加え、樹脂溶接による指穴埋めを利用して失敗素材の廃棄回数を削減できたことが大きく寄与しているものと考えます。
一方、自作なので人件費は無料でしたが、検討時間・作業時間と工数を考慮した場合の累計開発費用は、もう百万円とかでは全く足りないレベルです。。。
テレビに出ました
この楽器の凄さは伝わる人には伝わるようで、なんとテレビ朝日の深夜番組に呼んで頂きました。→塩ビ管サックスでTV出演(2022)
・2020.11追記:真似して作って頂いても結構ですが、我々独自の要素を参考にされた場合には、公表や実演の際に「ジャズボイラーズの~」と出典を明示して頂くのが条件です。よろしくお願いします。